冬の星空見上げ人の豊かさ思う

エッセイ

モーツアルトは、死後、しばらく世間から忘れ去られた。その間、彼の楽譜や書簡は、すべて、妻のコンスタンツェが保管していた。世が忘れても、夫の業績を忘れず守ってくれた意味で、彼女の業績も高く評価されている。
しかし、この世界では、「コンスタンツェ」のいなかった「モーツアルト」が、数え切れないほど、大勢したのではないかなと思う。記録にとどめられなかった名作が、またその作者が、実は山のように多く実在したのではなかろうか。
一人の恋人のために捧げられ、公にされなかった名曲。出版されなかった詩集。人目にさらされずに朽ちていった絵画。録音されなかった名演奏。録画されなかった名演技、書きとどめられなかったノンフィクションドラマ、etc。
記述され、確認できるものだけが人間のすべてではない。流れ去ってしまった美しい瞬間、書き留められなかった価値ある諸事実が、確かにあったに違いない。私達はそれらを、永遠に知ることはできないかもしれないが、記録された事実よりも圧倒的に多いだろうとを思うと、人間の可能性を信じ、心豊かになれるような気がする。
冬の夜空、無数の星を見ながら、はるかに多い光らない星の存在を思う。

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