定年退職後に家でゴロゴロする夫を、疎ましく思う女房は少なくない。彼らは「濡れ落ち葉」のようだと評されたりするが、私は妻達が思うほど男達はみじめではないと思っている。
現役を退いた後の虚脱感は、大昔も今も変わらないだろう。男たちは外で働き、夕暮れまで家にかえらなかった。戦い、傷だらけで戻ることもあっただろう。それでも外で働く彼らの力の源になったのは、腹をすかせている家族を食べさせたいという衝動ではなかっただろうか。
収穫があって、それが果たされていた間は充実感があった。しかしかつて自分が口にしていた「お年寄りの皆さん、そろそろお引取を」という言葉が、今や自分自身に突きつけられていると感じる。
生きがいが見つからず、朝からうつうつとして酒を飲み、首に縄を掛けたくなる時もあるかもしれない。
しかし私は思う、華々しい活躍をしてきた夫達には、人生を総括するためにそのような時を過ごすことが必要だと。ちょうど御馳走を食べたあとは、残飯整理が待っているように。
締めくくりに一句、「人生の香り深まる濡れ落ち葉」。
(朝日新聞「声」に掲載) 2007/1/30