高齢になり記憶・認知機能が低下すると認知症が疑われる。だが私は別の視点を持ちたい。
施設入居中の92歳女性は数分前のことを忘れる。帰る家はないのに、夕方になると荷物をまとめ「お世話になりました。家に帰ります」。「最近の物忘れはいかがですか」の問いに「どうでもいい事は忘れるようにしていますが、大切な事はしっかり覚えます。でも今の私にはその大切な事がないんです」。
82歳男性。「心筋梗塞で救急車で運ばれた。三途の川の向こうでカワイイ女の子たちが手を振って、渡ろうとしたら救急処置が功を奏して引き戻された」。笑い話だが、この世に未練はなく次の世界への憧れを感じた。
95歳男性は「若い人たちとは話が通じない。声をかけられても難聴のふりで適当に答えている」という。長い人生で培った知恵を持ちながら、後輩に話しても通じないので背を向けている。
脳機能だけを見る薬物中心の医療でなく、人の幸せは何か、残りの人生をどう生きるか、多元的視点で受け止めねばと思う。
(朝日新聞 2025.9.24 声に掲載 )
高齢者との会話は、次元が違う
