患者の意思を最上位におく議論を

エッセイ

ALSに関係する嘱託殺人事件は、2004年に横浜でもあった(1)。ALSだった40歳の長男に懇願され、母親が人工呼吸器を止めた。嘱託殺人罪で執行猶予付きの判決をうけたが、母親は悩み、「長男の所に行きたい」と夫に懇願した。致し方ないと考え、夫は妻を刺殺した。横浜地裁は夫を嘱託殺人として起訴した。
患者本人の意思が実施できない現実と向き合うたび、私は原因が日本の風土に関係していると思ってきた。
一人の終末期患者が死にたいと意思表示すると、家族、担当医、訪問看護師、ケアマネージャー、ソーシャルワーカー等が大挙して集まる。そして死ぬ権利や生きる権利が論議される。患者本人の意思は片隅に追いやられ、集団の意思が尊重される。個人の意思も尊重してきたと反論される方々もおられるだろうが、少なくとも、議論の最上位におかれたことは今までなかったと思う。
全面的な介助を受けるALS患者の傍らに寄り添い、優しく手を握る。「お辛いですね」と語りかけ、まず彼らの悲しみや苦悩を知る者でありたい。そして彼らに問いかけたい、「あなたが生きる上で最も大切にしてきたことは何ですか。」
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(1) https://www.kanaloco.jp/article/entry-125503.html
相模原での妻殺害事件、容疑者を嘱託殺人罪で起訴/横浜地検
横浜地検は2日、相模原市宮下本町の自宅で妻を殺害したとして、殺人容疑で逮捕・送検された無職菅野幸信容疑者(66)を嘱託殺人罪で起訴した。起訴状によると、菅野被告は10月12日午後2時半ごろ、自宅寝室で妻の初子さん(65)に殺害を頼まれ、首を包丁で刺して、殺害したとしている。初子さんは2004年8月、筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)の長男=当時(40)=に懇願されて人工呼吸器を停止したとして、05年2月に嘱託殺人罪で執行猶予付きの有罪判決を受けていた。県警などによると、菅野被告は初子さんから日ごろから「死にたい」と言われ、12日午前、初子さんと車で相模湖方面に出掛けた。菅野被告は「心中しようと思ったが死にきれなかった」と供述。菅野被告の首にも絞めたようなあとがあるといい、心中を図ろうとしたことも裏付けられたことから嘱託殺人罪を適用した。菅野被告は自宅に戻った後、初子さんが持ち出した包丁で刺したという。ベッド脇には初子さんがつづった2人の娘あての遺書があり「これでやっと楽になれる」などと書かれていたという。刺殺後、菅野被告は相模原署に「自宅で妻を殺しました」と自首した。

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