表情伝えるマスクマナー

エッセイ

マスク着用が普通の現代、人の表情がわからないため、コミュニケーションの何らかの重要な要素が欠落していると感じている。それは何か考えてみた。
マスク着用がまだ喚起される前、介護施設の職員から聞いたことだが、数分前のことを忘れてしまう重度の認知症患者が、笑顔で優しく世話する介護者にはついていくが、無愛想で粗雑な介護者は避けるそうだ。
つまり、記憶中枢が高度に障害されても、情感の中枢では、記憶機能が残っている。これは生体防御が関係していると私は推察している。
険し表情をしている認知症患者に、思い切り笑顔を向けると表情は確かに一変して穏やかになる。笑顔を向けることは、「私はあなたの味方ですよ」と相手に瞬時に伝える手段であり、これによって得られる安心感は大きい。
逆にマスク着用で、基本的な安心安全の判断手段を一部失っていることが、生活のしにくさを感じさせる一因かもしれない。
初対面の時や、会議で発言する時、また大切な家族や友人に会ったとき、数秒でもマスクをいったんはずして表情を伝えることは大切だと思う。                                         (2020 6月25日 朝日新聞声)

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